コンパクトと最大値・最小値の原理(解析学 第I章 実数と連続13)


これまで,点列コンパクト,開集合,閉集合という空間の距離を数学的に表現してきました.
今回はこれら準備してきた概念を用いて,コンパクト空間上の連続関数が最大値・最小値を持つことを証明します.

関数のグラフを描いたり,イメージに頼ったりせず,定義と論理のみで証明できるようになることが数学を学ぶモチベーションであり,数学の素晴らしさなのです.

なお,「東京大学出版 杉浦光夫著 解析入門1」を参考としております.

コンパクトとは

まずコンパクトとは何か.

こちらの記事で解説していますが,ある位相空間がコンパクトとは,その空間を無限個の開集合で覆ったとしても,その中からたった有限個の開集合を選択するだけで覆えているときその空間をコンパクトといいます.

ここで,「位相空間」という言葉が出てきますが,位相空間とは点の距離が定義された集合のことです.

我々が今扱っている話題だけに絞ると,普通のn次元の実数の空間\(\mathbb{R}^n\)で,点と点の距離が,通常の絶対値による距離となっている集合と考えればよいです.これは位相空間の一つで,「距離空間」といいます.

1次元の直線でいうと,2と3の距離は,\(|2-3|=1\)です.
2次元の平面でいうと,(1,1)と(2,3)の距離は,三平方の定理から,\(\sqrt{(1-2)^2+(1-3)^2}=\sqrt{5}\)です.

数学では,直線上,あるいは平面上の直感的な距離(位相)だけでなく,直感に反するような距離(位相)を定義することができます.それによって,関数の集合等の空間を扱えるようになり便利なのですが,ここでは\(\mathbb{R}^n\)の「距離空間」だけを扱います.一般の位相空間についてはまた別の記事で書きたいと思います.

さて,コンパクトの数学的な定義を述べます.

定義(コンパクト)

集合\(K \subset \mathbb{R}^n\)がコンパクトとは,任意個の開集合の族\(\{U_{\lambda}\}\)で\(K \subset \displaystyle \bigcup_{\lambda}U_{\lambda}\)
このとき,\(K \subset \displaystyle \bigcup_{k=1}^{n}U_{\lambda_{k}}\)

点列コンパクトと有界閉集合とコンパクトは同値

前回,点列コンパクトと開集合,閉集合という概念を定義しました.

点列コンパクトとは,簡単にいうと,
点列がその集合内の値に収束する部分列を常に持つ集合(位相空間)のことで,ある意味,端っこが存在する集合です.

開集合とは,内部だけで存在している集合で,端っこが無い,ある種の無限性を持つ集合で,
閉集合とは,端っこがあり,ある種の有限性を持つ集合です.

点列コンパクトも,閉集合も似たような概念ですが,実は,閉集合にさらに有界であるという条件が付けば,点列コンパクトと同値になります.
さらに,距離空間だけに限って言えば,点列コンパクトとコンパクトは同値になります!!

つまり,我々が今考えているn次元の実数の集合でいえば,コンパクトであることを言うには,その集合が有界な閉集合であることが必要十分条件になるのです.

私が数学を勉強する上で大事にしているのは,それを学ぶ上でのモチベーションです.
どんな意味があって,どんな歴史があって,その概念を学ぶのか,その概念を学ぶことでどのような素晴らしい新たな数学の世界が広がるのか.

コンパクト性は閉集合の本質であり,物事(特に収束など)を簡潔に見通す便利なラベルである,と私は理解しています.

では,次を証明します.

命題\(K \subset \mathbb{R}^n\)に対し,次は同値.
(a) \(K\)は点列コンパクト
(b) \(K\)は有界閉集合
(c) \(K\)はコンパクト

証明
(a)(\(\Longrightarrow\))(b):
\(K\)を点列コンパクトとする.このとき,\(K\)は有界である.
なぜなら,もし,\(K\)が有界でないとすると,任意の自然数\(\forall m \in \mathbb{N}\)に対して,\(|x_m|>m\)となるような元\(x_m \in K\)が取れるので,このような\(K\)の点列\(\{x_m\}\)を考えると,\(x_m \rightarrow \infty\)となり,\(K\)の点に収束しない.これは\(K\)の点列コンパクト性に矛盾.よって\(K\)は有界.

そして,点列コンパクトの定義から,点列の収束点が\(K\)の元なので,
\(a \in \bar{K} \Longleftrightarrow a \in K\)に収束する\(K\)の点列が存在する」より,\(\bar{K} = K\).

よって,\(K\)は閉集合.

(b)(\(\Longrightarrow\))(a):
\(K\)を有界とする.このとき,\(K\)の任意の点列\(\{x_m\}\)は収束する部分列を常に持つ(つまり全有界).
これは,次元nの帰納法とボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理により示すことができる.
つまり,nが1次元のとき,ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理「有界な実数列は常に収束する部分列をもつ.」より正しい.

n-1次元のとき,真とする.
いま,\(\mathbb{R}^n\)の点を\(x=(x_1,x_2,\dots,x_{n-1},x_n)=(x^{\prime},x_n)\)とする.
ここに,\(x^{‘}=(x_1,x_2,\dots,x_{n-1}) \in \mathbb{R}^{n-1}\)である.

この記述にて,\(K\)の点列\(\{x_m\}_{m \in \mathbb{N}}\)は,\(x_m=(x_m^{\prime},x_{m,n}f)\)とする.

このとき点列\(\{x_m^{\prime}\}\in \mathbb{R}^{n-1}\)は,有界であり,帰納法の仮定より収束する部分列\(\{x_{m(k)}^{\prime}\}\)を持つ.

ここで,点列\(\{x_{m(k),n}\}_{k \in \mathbb{N}}\) は,\(\mathbb{R}\)の有界数列より,ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理より収束する部分列\(\{x_{m(k(l)),n}\}_{l \in \mathbb{N}}\)を持つ.よって,\(\{x_{m(k(l))}^\prime,x_{m(k(l)),n}\}\)は\(\{x_m\}\)
の収束部分列である.
よって\(K\)は全有界.

また,\(K\)は閉集合より,\(\bar{K}=K\)なので,\(K\)の収束する点列の収束点は\(K\)の元.つまり閉集合である.

(b)(\(\Longrightarrow\))(c):
\(K\)を有界閉集合とする.このとき,\(K\)を被覆したとき,有限個を選べないとして矛盾を導く.
まず,任意の開被覆\(K \subset \displaystyle \bigcup_{\lambda}U_{\lambda}\)からどのように有限個の開集合を選んでも\(K\)を被覆できないとする.・・・(☆)

\(K\)は有界より,n次元の有界閉区間に含まれる.
つまり,
\(K \in I_{0}=[a_1,b_1]×\dots ×[a_n,b_n]\).
次に,\(I_{0}\)の分割を考える.この分割は各\([a_i,b_i]\)の長さを\(\displaystyle \frac{1}{2}\)となるようにとる.
このとき\(I_{0}\)は\(2^n\)個に分割される.このうち,少なくとも一つの小区間と\(K\)の共有部分は,有限個の\(U_{k}\)で被覆できない.(もし,全ての小区間と\(K\)の共通部分が有限個の\(U_{k}\)で覆えたとすると,\(K=K\bigcap I_{0}\)自身も有限個の\(U_{k}\)で覆えて(☆) に矛盾するため)

そのような(有限個で被覆できない)小区間を一つとり,\(I_{1}\)とする.

これを繰り返すと,閉区間の列
\(I_{0} \subset I_{1} \subset \dots \subset I_{m} \dots \)となり,\(I_{m}\)の第k辺\(I_{m,k}\)は区間縮小法の仮定を満たすため,
$$\displaystyle \bigcap_{m\in \mathbb{N}}I_{m,k}=\{c_k\}$$となる.これはつまり,$$\displaystyle \bigcap_{m\in \mathbb{N}}I_{m}=\{c\}$$を意味する.

このとき,収束点\(c \in \bar{K}=K\)(∵閉集合)なので,点\(c\)は\(K\)の開被覆のある開集合に含まれていて,\(c \in U_{\lambda}\)とできる.\(c\)の開近傍\(U(c,\epsilon)\)が\(U_{\lambda}\)に含まれるようにとる.\(I_{m}\)の作り方から,ある\(m\)で\(I_{m}\subset U(c,\epsilon)\)とできるので,$$I_{m} \cap K \subset I_{m} subset U(c,\epsilon) \subset U_\lambda.$$これは有限個で覆えないということに矛盾している.よってコンパクト.

(c)(\(\Longrightarrow\))(b):
\(K\)がコンパクトとする.
(ⅰ)\(K\)が有界であること.これは対偶により示される.
対偶を取って,有界でない集合\(A\subset \mathbb{R}^n\)がコンパクトでないことを示せばよい.

任意の自然数\(\forall m\)に対して\(0\)の近傍\(U_m = U(0,m)\)をとると,\(U_m\)は\(A\)の開被覆.\(U_m\)からどのように有限個の開集合を選んだとしても,仮にその中の最大の\(m\)を\(m_0\)とすると,\(A\)は有界でないので,\(\exists a \in A s.t. |a|>m_0\)となりコンパクトでない.
対偶を取って,\(K\)は有界.

(ⅱ)\(K\)が閉集合であること.これは補集合\(K^{c}\)が開集合であることを示せばよい.
\(K^{c}\)の任意の元\(x\)の近傍が\(K^{c}\)に入ることを示す.

任意の\(y \in K\)について,\(\epsilon_y = \displaystyle \frac{1}{2}|x-y|\)とし,\(U_y = U(x,\epsilon_y),V_y=U(y,\epsilon_y)\)とすると,\(U_y \cap V_y = \emptyset\).

また,\(\displaystyle \bigcup_{y \in K}V_{y}\)は\(K\)の開被覆より,コンパクト性から有限個を選んで,$$K \subset \displaystyle \bigcup_{i = 1}^{m}V_{y_i}$$とできる.

この\(y_i\)たちについて,\(U=\displaystyle \bigcap_{i=1}^{m}U_{y_i}\)とすると,\(U\)は\(x\)の近傍で,\(U \subset K^c\)となる.
よって\(K\)が閉集合  ■

最大値・最小値の原理

コンパクトや有界閉集合などの言葉を定義した一つの応用として,最大値・最小値の原理を証明したいと思います.

定理(最大値・最小値の原理)\(K \subset \mathbb{R}^n\)を点列コンパクト,\(f:K \longrightarrow \mathbb{R}^m\)が連続とすると,次が成り立つ.
(a):\(f(K)\)も点列コンパクト
(b):\(m=1\)のとき,つまり\(f:K \longrightarrow \mathbb{R}\)のとき,\(K \neq \emptyset\)ならば,
\(f\)は\(K\)で最大値・最小値を持つ.

証明:
(a):\(K\)は(点列)コンパクトなので,点列\(\{x_n\}\)には収束する部分列\(\{x_{n(k)}\}\)が存在して,極限値\(x\)は\(K\)の元.

\(f(x_n)=y_n\)となる\(f(K)\)の点列\(\{y_n\}\)を考える.

すると\(\{x_{n(k)}\}\)に対応する部分列\(\{y_{n(k)}\}\)が取れて,
$$\displaystyle \lim_{k \to \infty} y_n(k) = \displaystyle \lim_{k \to \infty} f(x_{n(k)})=f(x)$$(∵ \(f\) は連続より)
この極限値\(f(x)\)は\(f(K)\)の元なので,\(f(K)\)も点列コンパクト.

(b):
(a)より\(f(K)\)は\(\mathbb{R}\) の点列コンパクト,つまり有界閉集合である.
ここで,実数の連続性公理から,上限\(b = sup{f(K)}\)が\(\mathbb{R}\) に存在する.

上限ということは,\(b\)よりちょっとでも小さい数\(b-\epsilon\)は,\(f(K)\)の最大値ではなくなり,\(\exists c \in U(b,\epsilon)\) とできる.

次に,\(\epsilon\)より小さい正の実数\(\epsilon^{\prime}\)をとれば,\(\exists c^{\prime} \in U(b,\epsilon^{\prime}) \subset U(b,\epsilon)\)とできる.

これを続けると,上限\(b\)に近く\(f(K)\)の点列が作れる.

\(f(K)\)はいま閉集合なので,収束点\(b \in f(K)\).

よって,\(\exists x \in K s.t. f(x)=b\)で,\(f\)は\(x\)において最大値となる.
(最小値についても,\(b^{\prime}=inf{f(K)}\)とすればよい)    ■

さいごに

これまで,点列コンパクト,開集合,閉集合,コンパクトを定義してきました.
勉強をする上であまり面白くない部分ですが,こういう厳密な定義の上に面白い数学の世界が待っています.

これで実数と連続に関する学習を終えて,微分法の学習に移りたいと思います.

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