会社の同僚の方とたまに自然科学研究会なるものを開催しております.
自然科学のあるテーマに沿って自由にプレゼンするものです.
第二回では私は「生活の中の数学」というテーマでプレゼンしました.
今回は,新幹線の座席に使われている数学の話をします.
なぜ新幹線の席は2席シートと3席シートの組み合わせが多いのでしょうか?実は数学的に面白い理由があります.
これは私が教員採用試験を受験した際の模擬授業で取り上げたネタでもあります.
新幹線の席に座ろう
新幹線の座席には,「2席シート」と「3席シート」があります.
ここに団体(2人以上)の乗客が来たことを想定して,“ひとりぼっち“が出ないようにうまく席に座りましょう.
上のスライドの赤丸で囲んだ人は,隣の席が空いており”ひとりぼっち”になっています.
こういう状況を回避するように座らせます.
例えば8人の場合,17人の場合を考えてみましょう.
うまくひとりぼっちを出さないように全員を席に座らせることができました.
もちろん座らせ方は一通りではありません.別のパターンもOKです.
では,これが99人,151人ではどうでしょう?
何となくできそう?
それでは理由になりません.
ここで我々には数学があります.
問題を抽象化,一般化して数式で説明してみましょう.
新幹線の座席問題の数式を立てる
団体の人数を一般化するために,団体の数=n(n≧2)としましょう.
2席シートをx個用意して,3席シートをy個用意して,n人座らせると,$$2x+3y=n$$とできます.
数学的に言うと,
nを満たす0以上の整数x,yは存在するか?
となります.
少し例で考えてみます.
最小の人数n=2人であれば,(x,y)=(1,0)でよい.
人数n=3人であれば,(x,y)=(0,1)でよい.
人数n=4人であれば,(x,y)=(2,0)でよい.
人数n=5人であれば,(x,y)=(1,1)でよい.
人数がn=k人で(x,y)が存在しているとすると,n=k+1人の場合は,2席シートを1個外して,3席シートを1個追加すればよいのです.(数学的帰納法の考えです)
なぜなら,2と3の差が1だからです.ここに気がつくと,答えに辿りつきます.
つまり,どんな数nでもx,yは存在します.
nが2人以上の場合は,”ひとりぼっち”を出すことなく席に座らせることができるということがわかりました.
では,1人の場合は・・・
数学で考えることのメリットの一つとして,現実的にはあり得なくても,論理的に抽象化できることです.$$1=2×(-1)+3×1$$
つまり,負の数まで許せば,$$2x+3y=n$$は任意の数nに対して成り立つ一次方程式なのです.
さらなる一般化
この問題をさらに一般化します.
シートが3席と4席になるとどうなるでしょうか.全ての数nを表すことができるでしょうか.
シートが5席と100席になるとどうなるでしょうか.
シートが5席と101席になるとどうなるでしょうか.
・・・
つまり一般化すると次の問題になります.
結論を述べます.
数学の授業のネタとして
私はある年に教員採用試験で高校数学教諭を受験し転職しようとしたことがあります.どうしても数学を教える仕事がしたく,先生になりたいと思ったからです.結果は落ちましたが,その試験の模擬授業で使ったネタが今回の新幹線と整数論の問題でした.
高校数学の数Aには,「整数論」という分野があります.私が高校の時にはなかった分野で,整数論が取り上げられることは大変喜ばしいことです.
整数論の対象は数です.生徒には何故今更”数”について学ぶのだろう,という疑問があると思われます.
$$\cdots,-2,-1,0,1,2,3,\cdots$$
実は,これから学ぶ整数論というのは実社会でも役に立っている,それを体感しよう,ということで,新幹線の座席は何故2席と3席のシートなのだろうか,と発問します.
生徒一人一人に新幹線の座席シートが書かれたプリントを配り,8人の場合はどうか,17人の場合は?と試行させます.
次にこの問題を数式で表します.
この問題をこれから整数論で考えて行きましょう,という流れです.
私は冒頭の5分の授業で,数式を立てるまでを行いました.
他の受験生にもウケがよかったです.
ただ,ネットで新幹線の座席の理由を調べてみると,詰め込んだ結果,そうなっただけで,乗客を効率よく乗せられるという理由は後付けだそうです…