ガロア理論その3 〜準備:同型写像〜

この記事では、体の拡大を「方程式の根のシャッフル」という視点から捉え、その考えを体の同型写像の理論へとつなげていきます。
最終的には係数体の同型写像を最小分解体に延長することと、その具体例として\(\sqrt[3]{2}\)の場合を確認します。

体の拡大を根のシャッフルとして見る

体の拡大というと、新しい数を付け加える操作のように感じられます。
しかし、ここでは別の視点で体の拡大を見ていきます。

それは、体の拡大を
「方程式の根が、もとの体の構造を保ったままどのように動けるか」
という問題として捉える視点です。

ここで、もとの体の構造を保つとは、根を自由に動かすことではなく、「許されたシャッフル」を明らかにすることです。

なぜもとの体(ここでは有理数体)を固定するシャッフルを考えるかというと、同型写像によって、「動かない部分」と「動く部分」を区別するためです。

有理数体を固定した体自己同型全体を考えることで、すべての同型写像で不変となる元が、もとの数の世界(基礎体)であり、同型写像によって動く元が、体の拡大によって新しく現れた数であることを判別することができます。

もし有理体を固定しなければ、どこまでがはじめからあった構造で、どこからが拡大による自由度なのかを判別することができません。

この意味で、もとの体つまり基礎体(ここでは有理数体)を固定することは、体の拡大における本質と余分な自由度を切り分けるための基準を与えているのです。

なぜこのような考え方をするかをもう少し深堀りしてみると、方程式を解くために新たに追加した数たちを適当に足したり掛けたり冪をとることで、基礎体(有理数体)に入ることが分かれば、それを逆に解くことで新たに追加した数たちを基礎体(有理数体)の数の四則演算と累乗で表すことができるので、方程式が解けると言えそうだからです。これを実践するには、もとの数の世界に入ったかどうかを判別する必要があり、その基準のためにシャッフルによる不変性を見ることに繋がります。

このように、根のシャッフルによる変化を見ることで、”元の世界の数”か”拡大した世界の数”かを判定できることがガロア理論の本質だと思っています。

この考え方を、まずは簡単な例で確認します。

2次方程式におけるシャッフルの例

次の多項式を考えます。

$$
f(X)=X^2-5 \in \mathbb{Q}[X]
$$

この多項式の根は

$$
\alpha=\sqrt{5}, \quad \beta=-\sqrt{5}
$$

です。ここで、この根のシャッフルを考えます。すると、解と係数の関係から、根から元の方程式の係数が作られ、つまり根の四則演算から有理数が作られます。
前の記事で、根の置換により不変な数は元の世界の数、根の置換により変わる数は拡大した世界の数ということが、方程式を解くためのカギになるのではという話をしていました。

そこで、この有理数を動かさない根のシャッフルを「拡大体の同型写像」という概念に抽象化します。

まず、根は有理数体には含まれないため、体の拡大

$$
E=\mathbb{Q}(\sqrt{5})
$$

を考えます。

ここで重要なのは、
有理数体 \(\mathbb{Q}\) を固定したまま、
\(\sqrt{5}\) がどのように動けるかを考えることです。

 

 

 

さて、体の自己同型写像とは、体 \(E\) の写像

$$
\sigma : E \to E
$$

$$
\sigma(a+b)=\sigma(a)+\sigma(b), \qquad
\sigma(ab)=\sigma(a)\sigma(b), \qquad
$$

かつ、全単射を満たすとき,\(\sigma\) を体自己同型といいます。

つまり、自分自身への1:1の写像であって、足し算、掛け算の演算が写した先でも保存されるものです。

さらに

$$
\sigma(q)=q \quad (q\in\mathbb{Q})
$$

が成り立つとき,有理数を固定すると言います。

多項式 \(X^2-5=0\) の根を含む体

$$
E=\mathbb{Q}(\sqrt{5})
$$

を考えます。

体同型 \(\sigma\) は

$$
\sigma((\sqrt{5})^2)=\sigma(5)=5
$$

を満たすので,

$$
\sigma(\sqrt{5})^2=5
$$

となります。

\(x^2=5\) の解は \(\pm\sqrt{5}\) しかないから,

\(\mathbb{Q}\) 上の自己同型\(\sigma : E \to E\)であって、
\(\sigma\) が \(\mathbb{Q}\) を動かさないものは、次の2通りしかありません。

\(\sigma(\sqrt{5})=\sqrt{5}\)
\(\sigma(\sqrt{5})=-\sqrt{5}\)

これは、根の集合
\(\{\sqrt{5},-\sqrt{5}\}\)
に対して

・ 何もしない
・ 2つを入れ替える

というシャッフルが可能であることを意味しています。

この例から、体の構造を保つ限り、根の動きは厳しく制限されていることがわかります。

体の同型写像と根の移動

一般に、\(F\) を体、\(E\) をその拡大体とします。
\(\sigma : E \to E’\) が体の同型写像であるとは、加法と乗法を保ち、全単射であることをいいます。

特に、
\(\sigma|_F = id\)
を満たすとき、
\(\sigma\) を \(F\) 上の体同型写像といいます。

このとき、次の事実が重要です。

\(f(X)\in F[X]\) が多項式で、
\(\alpha\in E\) がその根であるとします。
\(\sigma\) が \(F\) 上の体同型写像であれば、

$$
f(\alpha)=0 \Rightarrow f(\sigma(\alpha))=0
$$

が成り立ちます。

つまり、体の同型写像は、方程式の根を別の根へと写します。
これが「ガロア共役」と呼ばれる現象の出発点です。

同型写像の延長

ここから、同型写像という方程式の根を別の根に入れ替えるというものを拡大する話をします。
この記事の中心となる議論です。

\(F\subset E\) を体の拡大とし、\(f(X)\in F[X]\) を既約多項式とします。
\(\alpha\in E\) を \(f(X)\) の根とします。

また、
\(\sigma_0 : F \to F’\)
を体の同型写像とします。

\(f(X)\) の係数に \(\sigma_0\) を作用させて得られる多項式を

$$
f^{\sigma_0}(X)
$$

と書きます。

このとき、
\(f^{\sigma_0}(X)\) の任意の根 \(\alpha’\) に対して、
\(\alpha\) を \(\alpha’\) に写すような体同型写像が作れることを示します。

命題
\(\sigma_0 : F \to F’\) を体の同型写像とする。
\(f(X)\in F[X]\) を既約多項式、
\(\alpha\) をその根とする。\(f^{\sigma_0}(X)\) の根 \(\alpha’\) に対して、
\(\sigma_0\) を
\(F(\alpha)\) から \(F'(\alpha’)\) への体同型写像
\(\sigma\) に延長でき、
\(\sigma(\alpha)=\alpha’\) が成り立つ。

証明

\(\alpha\) の最小多項式は \(f(X)\) であるから、

$$
F(\alpha) \cong F[X]/(f(X))
$$

が成り立つ。これは体の拡大の理論で少し話しましたが、環の一般論で、環を極大イデアルで割ると体になります。
ここでの素イデアル \((f(X))\) は、方程式 \(f(X)\)が既約多項式のため、極大イデアルになります。
この記号は方程式 \(f(X)\)で割った多項式の集合を表しています。
このあたりは環の準備が必要です。また別でまとめたいと思います。

同様に、

$$
F'(\alpha’) \cong F'[X]/(f^{\sigma_0}(X))
$$

である。

\(\sigma_0\) により誘導される写像
\(F[X]\to F'[X]\)
は、
\((f(X))\) を \((f^{\sigma_0}(X))\) に写す。

したがって、商を取ることで、
体同型写像

$$
\sigma : F(\alpha)\to F'(\alpha’)
$$

が定まり、
\(\sigma|_F=\sigma_0\)、\(\sigma(\alpha)=\alpha’\) を満たす。 ■

最小分解体への延長定理

この結果を繰り返し用いることで、
最小分解体への延長定理が得られます。

定理(最小分解体への延長定理)
\(F\) を体、
\(f(X)\in F[X]\) を多項式とし、
\(E\) をその最小分解体とする。\(\sigma_0 : F \to F’\) を体同型とするとき、
\(f^{\sigma_0}(X)\) の最小分解体 \(E’\) が存在し、
\(\sigma_0\) は
\(E\) から \(E’\) への体同型写像に延長できる。

証明

\(f(X)\) の根を
\(\alpha_1,\alpha_2,\ldots,\alpha_n\)
とする。

命題を順に適用し、
\(\alpha_1,\alpha_2,\ldots,\alpha_n\)
を対応する根へ写すように
\(\sigma_0\) を段階的に延長する。

最小分解体の最小性より、
得られた写像は \(E\) 全体に定義される。 ■

例:2の3乗根の場合

最後に具体例を確認します。

$$
f(X)=X^3-2 \in \mathbb{Q}[X]
$$

この多項式の根は

$$
\sqrt[3]{2},\quad \sqrt[3]{2}\omega,\quad \sqrt[3]{2}\omega^2
$$

ただし \(\omega\) は 1 の原始 3 乗根です。

最小分解体は

$$
E=\mathbb{Q}(\sqrt[3]{2},\omega)
$$

です。

\(\mathbb{Q}\) 上の体自己同型 \(\sigma : E \to E\) は、
\(\sqrt[3]{2}\) を別の根へ写すことで定まります。

例えば、

$$
\sigma(\sqrt[3]{2})=\sqrt[3]{2}\omega
$$

と定めると、\(\sigma\) は体自己同型として一意に延長されます。

このようにして、\(\sqrt[3]{2}\) は他の共役な根へとシャッフルされます。

これが、体の拡大を通して現れる対称性の具体例です。

シャッフルの仕方は他にもあり、以下のノートのように考えることができます。

このような根のシャッフルの方法を考えていくことが群論につながり、無限の元がある体の拡大の話を有限の群の話に置き換えていくことがガロア理論です。

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