前回の記事で,新幹線の座席は乗客が効率よく座れるようになっているという話をしました.それを論理的に支えているのが,互いに素な数は全てを表すという整数論の基本定理です.今回はこれを証明します.
なぜ新幹線の席は2席シートと3席シートの組み合わせが多いのでしょうか?
それは,2席と3席であれば,どんな団体が来ても効率よく席に座らせられるからです.
このことに関しては,次の記事を参照ください.
新幹線の座席はなぜ2席と3席なのか?(自然科学研究会2 生活の中の数学その3)
整数論の基本定理
この問題をさらに一般化すると次が成り立ちます.
証明には,3ステップあります.
証明
まず,数の剰余に関する次を証明します.
この命題が言っていることを具体例で理解します.
一般に,整数\(b\)で割った余り(剰余)は,$$0,1,\cdots,b-1$$のいずれかになりますが,\(a,b\)が互いに素であれば,被る剰余がないということを言っています.
命題1の証明:
背理法による.
\(b\)で割った余りのうち,\(ka\)と\(la\)(ただし,\(k \neq l,1 \leq k < l \leq b \))の余りが等しいと仮定する.
すると次が成り立つ.$$ka=mb+r,$$$$la=nb+r$$つまり,剰余が\(r\)で等しい.これの差をとると,$$ka-la = mb-nb = (m-n)b$$$$∴ (k-l)a = (m-n)b$$
よって,\((k-l)a\)は\(b\)で割れるが,条件より\(a,b\)は互いに素数より,\(k-l\)が\(b\)で割れることになるが,\(0<k-l<b\)より,矛盾.
よって,余りは異なる.
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これを用いて次の命題2を証明します.
この命題2は非常に有用です.命題1もそうですが,これを素因数分解の一意性は整数論の基礎と言っても過言ではないと思います.特にこの命題1,2は“群”の考えを導入すると,よりスマートにかつ整数の本質を理解することができるようになります.そして,その先に整数論の深く美しい真理(平方剰余の相互法則に始まり,ガロア理論や類体論など)があるのです.
では,命題2の証明です.
命題2の証明:
\(b\)で割った余りは,\(0,1,2,\cdots,b-1\)のいずれかであり,命題1より,\(1a,2a,\cdots,(b-1)a,ba\)の余りは全て異なる.よって,この中で\(b\)で割って余りが1となる数があり,それを\(xa\)とする.そのときの商を\(-y\)とすると,$$xa=-yb+1$$$$∴ ax+by=1$$
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最後に,定理の証明です.
これは,命題2と同値です.
定理の証明:
命題2より,ある整数\(X,Y\)が存在して,$$aX+bY=1$$が成り立つ.両辺をn倍すれば,$$a(nX)+b(nY)=n$$とできるので,\(x=nX,y=nY\)とすれば$$ax+by=n$$
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さいごに
この定理のポイントは,
「互いに素な数によって,全ての数を表すことができる」
ということです.
この考えは,剰余群という形で洗練されていきます.
その背後には,類体論という美しい理論が存在します.
いずれ類対論にも迫っていきたいと思います.