もし子供に「何で分数の割り算は逆数をかけるの?」と聞かれたら,何と答えますか?
小学校で分数の割り算の仕方は習いましたが,何でそうなのかと改めて考えると結構難しいものです.
今回は割り算に関して,その本質に迫り,上記質問の回答を考えたいと思います.
子供への数学教育としてどうぞ.
目次【本記事の内容】
簡潔な説明
問:なぜ$$\displaystyle \frac{2}{3}÷\frac{3}{5}=\frac{2}{3}×\frac{5}{3}$$なの?
私なりの答え:分数の割り算では,割っている数=分母をまず揃えてやります.
つまり,それぞれの数の分母を揃えるために,分母分子に同じ数をかけてあげて,
$$\displaystyle \frac{2}{3}÷\frac{3}{5}=\frac{2×5}{3×5}÷\frac{3×3}{5×3}=\frac{2×5}{15}÷\frac{3×3}{15}$$
これで,両方の分数の分母が同じ15になった.
同じ割合での世界なので,あとは分子同士を普通に割り算すればいい.だから,
$$(2×5)÷(3×3)=\frac{2×5}{3×3}=\frac{2}{3}×\frac{5}{3}$$
となる.
だから,結果として,逆数をかけている.
これで何となく分かりそうだけど,割合とか,分数の意味とかがあやふやかもしれません.
もっと,割り算の本質に迫りたいと思います.
割り算は”割られる数”が”割る数”の何個分か
そもそも,割り算とは,”割られる数“が”割る数“の何個分なのかを表しています.
具体例をいうと,
問:6個のりんごを2人で分けると1人何個でしょう?
式で考えると,$$6÷2=3$$です.
これは,「割られる数6」は「割る数2」の”3個分”ということもできます.
$$6÷2$$のことを,分数で$$\frac{6}{2}$$とも書きます.
\(\displaystyle \frac{6}{2}\)は6が2の何個分かを表しているとも理解できます.
言い換えると,「2が6に対して占める量」とも言うことができ,このことを「割合」と言います.
①\(6÷2=3\)
②\(\displaystyle \frac{6}{2}=3\)
③6は2の3個分
④2が6に対して占める割合は3
これらは全て同じ状態を表しているのです.
線分でもイメージしてみます.
6という線分の中に2という線分が3つ分含まれるというイメージができると思います.
割り算は1単位分を表している
では次に,$$6÷\displaystyle \frac{1}{2}$$を考えてみます.
これが難しいのは,\(\displaystyle \frac{1}{2}\)で割るとはどういうこと?
とイメージしにくいからだと思います.
これも,割る数の何個分か,と考えましょう.
先ほどの線分でイメージできます.
これは,さらに次の見方もできます.
割り算とは,「1単位分の量」を表す.
\(6÷\displaystyle \frac{1}{2}\)の例で言うと,
これは,\(\displaystyle \frac{1}{2}\)単位の物差しで6の相対的な量を測っています.
なぜなら,先ほどの「③6は\(\displaystyle \frac{1}{2}\)の何個分か」という見方ができるからです.
この\(\displaystyle \frac{1}{2}\)単位の物差しを1単位分,つまり長さが1の物差しに置き換えてやります.
そうするには,\(\displaystyle \frac{1}{2}\)を2倍にして,相対的に6がどのくらいの大きさになるかを考えます.
これは,測る物差しを2倍にしているので,6も2倍ですね.
つまり,$$6÷\displaystyle \frac{1}{2} = (6×2)÷\left ( \displaystyle \frac{1}{2}×2 \right )=(6×2)÷1=6×2=12$$
結果的に,\(6÷\displaystyle \frac{1}{2}\)は\(6×2\)となり,逆数をかけていることに他なりません.
割り算の新たな見方もできました.
①\(6÷2=3\)
②\(\displaystyle \frac{6}{2}=3\)
③6は2の3個分
④2が6に対して占める割合は3
⑤\(\displaystyle \frac{1}{2}\)物差しの6個分(数としては3)
⑥1単位分の相対量(2を1に置き換えると相対的に6は3になる)
2/3リットルで4㎡塗れるペンキで1リットル分塗る
次のような例題を考えてみます.
例題:
\(\displaystyle \frac{2}{3}\)リットルで4㎡塗れるペンキがあります.このペンキ1リットル分で塗れる面積は?
この手の問題も,小学生で躓きそうな問題です.
先ほどの割り算の見方で考えると,1単位分(1リットル)で塗れる相対的な面積を求めればよいので,式は$$4÷\displaystyle \frac{2}{3}$$です.
計算は,先ほどの線分で考えたいと思います.
割る数の\(\displaystyle \frac{2}{3}\)を1単位にするには,まず3倍してみます.
そうすると,物差し2に対する塗れる面積12が出ます.
これをさらに2で割って1単位分を出します.
計算上は,$$4÷\displaystyle \frac{2}{3}=(4×3)÷\left ( \displaystyle \frac{2}{3}×3 \right )$$$$=\left \{(4×3)÷2\right \}÷(2÷2)=4×\displaystyle \frac{3}{2}$$$$=6$$となり,結果的に逆数をかけています.
よって,答えは1リットルだと6㎡塗れると分かりました.
さらに,これは\(\displaystyle \frac{2}{3}\):4という比率を1:\(x\)にした場合の\(x\)を求めているとも理解できます.
比率は,まさに左の数に対し右の数が何個分かという相対量を表しています.
$$\displaystyle \frac{2}{3}:4=2:12=1:6$$なので,結果,1リットルに対しては6㎡塗れます.
以上より,$$4÷\displaystyle \frac{2}{3}=\displaystyle \frac{4}{\displaystyle \frac{2}{3}}$$は,\(\displaystyle \frac{2}{3}\)に対する4の比率を表しており,それは6だということです.
分数は次のように適宜読み換えることができることが分かりました.
①\(6÷2=3\)
②\(\displaystyle \frac{6}{2}=3\)
③6は2の3個分
④2が6に対して占める割合は3
⑤\(\displaystyle \frac{1}{2}\)物差しの6個分(数としては3)
⑥1単位分の相対量(2を1に置き換えると相対的に6は3になる)
⑦分母と分子の比率(6÷2は6:2=3:1)
分数の掛け算の意味
次に,分数同士の掛け算について考えてみます.
問:$$\displaystyle \frac{2}{3}×\frac{3}{5}$$
計算の意味を考えてみます.
文章で表すと,「⑤\(\displaystyle \frac{1}{3}\)物差しの何個分か」を使って,
\(\displaystyle \frac{2}{3}\)は\(\displaystyle \frac{1}{3}\)物差しの2個分という状態で,
それを\(\displaystyle \frac{3}{5}\)という\(\displaystyle \frac{1}{5}\)物差しでの3個分倍するという意味です.
ちょっと分かりづらいので,物差しではなくブロックで考えます.
まず,ブロック全体を1とします.
これまで見たように,分数は比率であると考えられ,また相対的な量であると考えられるため,全体を1と考えることもできるからです.
この青い部分が\(\displaystyle \frac{2}{3}\)を表しています.
ここから更に,\(\displaystyle \frac{1}{5}\)物差し3個分状態を作ります.
結果,全体を15分割したうちの6個分となります.これは,分割する分数同士掛け算して,何個分かを表す分子同士掛け算していることに他なりません.
よって,$$\displaystyle \frac{2}{3}×\frac{3}{5}=\displaystyle \frac{2×3}{3×5}=\displaystyle \frac{6}{15}=\displaystyle \frac{2}{5}.$$
これは,物差しを\(\displaystyle \frac{1}{15}\)として物差しを揃えた上で分子を掛け算しているのです.
なぜ分数の割り算は逆数をかけるのか?
これまでの議論を元に,$$\displaystyle \frac{2}{3}÷\frac{3}{5}$$を再度考えてみます.
分数は全体を1とした際の相対的な値と見れたので,全体を1のブロックとして考えます.
すると,掛け算のときと同様にまずは分母を揃えて,つまり物差しを揃えた上で,何個分なのかを割り算,つまり分子同士割り算すればよいのです.
結果,$$\displaystyle \frac{2}{3}÷\frac{3}{5}=\displaystyle \frac{2×5}{15}÷\frac{3×3}{15}$$$$=\displaystyle \frac{2×5}{3×3}=\displaystyle \frac{2}{3}×\frac{5}{3}$$$$=\displaystyle \frac{10}{9}$$となります.
逆数をかけることの意味としては,分母を揃えるために,5倍し,その後,分子にある3で割っていると言えます.
また,割り算=分数=比率という考えもできるので,一般の場合にも以下のように式変形だけで計算できます.
\(\displaystyle \frac{a}{b}÷\frac{c}{d}\)
\(=\displaystyle \frac{\frac{a}{b}}{\frac{c}{d}}\)(分数に置き換え)
\(=\displaystyle \frac{\frac{a}{b}×d}{c}\)(分母と分子の比率を操作.dをかけて分母をcに)
\(=\displaystyle \frac{\frac{a}{b}× \frac{d}{c}}{1}\)(分母と分子の比率を操作.cで割って分母を1に)
\(=\displaystyle \frac{a}{b}×\frac{d}{c}\)
これにより,分数の割り算は逆数をかけるという説明ができました.
さいごに
分数や割合,比率という概念は小学生は躓きますし,学校の先生も教えるのが難しい分野だと思います.
長々と説明しましたが,下記は全て同じ状況を表しています.
①\(6÷2=3\)
②\(\displaystyle \frac{6}{2}=3\)
③6は2の3個分
④2が6に対して占める割合は3
⑤\(\displaystyle \frac{1}{2}\)物差しの6個分(数としては3)
⑥1単位分の相対量(2を1に置き換えると相対的に6は3になる)
⑦分母と分子の比率(6÷2は6:2=3:1)
どれか腑に落ちるものが見つかり,子供への数学教育の助けになれば幸いです.