不思議な「トマエ関数」〜有理数で不連続,無理数で連続〜


トマエ関数という関数をご存知でしょうか.
有理数で不連続で無理数で連続となるような不思議な関数です.

病的な関数とも言われる関数の一種で,ちょっと想像のつかない動きをします.

数学徒の中では有名ですが,そうでない人でも不思議さが伝わるように紹介したいと思います.

関数\(f(x)\)が連続であることのおさらい

まず関数の連続とは何でしょうか.
中学、高校で”関数”というものを学びます.
グラフを書くとき何点かプロットして,それらを滑らかに繋げていました.

例えば一次関数\(y=x\)のグラフを描きます.

何点かプロットして, 直線で結びます.

この関数は直感的にも繋がっているわけです.(途切れていない)

これを”連続“といいます.

次に二次関数\(y=x^2\)です.

こちらも何点かプロットして繋げます.

もう少し多めにプロットして,滑らかに繋げるとこんな感じ.

切れ目なく繋がっている=連続

というわけですが,一見当たり前のようなことを言っているように見えます.

何で連続という概念が必要かと言うと,極限値や微分積分を行う際に必要だからです.

微分や積分は関数の微小な値が扱える理論です.その時に関数が連続でなく途切れていると不便なわけです.だから関数が連続かどうかをまず確かめる必要があります.先ほどの一次関数や二次関数は明らかに連続なので安心して微分や積分ができます.

しかし,数学の世界ではこんな単純な関数だけではありません.感覚が通用しない関数もあります.

その時に,どのように切れ目なく繋がっていることを確かめるか.

そのために,人の解釈に依存しない,厳密な定義というのを数学では大事にします.

関数の連続の厳密な定義は下記です.

定義(関数の連続)関数\(f(x)\)が点\(a\)で連続
\(\Longleftrightarrow \displaystyle \lim_{x \to a}f(x) = f(a)\)
\(\Longleftrightarrow \) 任意の正の実数\(\epsilon\)に対して,ある正の実数\(\delta\)が存在し,\(|x-a|<\delta\)となる\(x\)に関して,\(|f(x)-f(a)|<\epsilon\)となる.

これは,ある関数の値にいくらでも近づけることができればその点では連続,ということを言っています.

詳細にみてみます.

$$|f(x)-b|<\epsilon$$の部分は,εは今,任意と言っているので,例えば0.01とします.このとき,関数\(f(x)\)の値と\(b\)の距離,つまり差の絶対値が0.01未満である,という意味です.

数と数の距離である差の絶対値が0.01未満ということは,その2つの数が近いと言えそうです.では,xがどうあればよいか.そこで,この与えられたεに対して,xとbの距離(差の絶対値)をどのくらいにすればよいかが\(|x-a|<\delta\)です.

つまり,与えられたεという近さの指標に対して,xとaの距離がδ未満であれば満足するということです.

つまり,\(x\)と\(a\)を近くにすれば,\(f(x)\)と\(f(a)\)の値をいくらでも近づけるようにできるというのが,連続ということです.

\(D\)の各点で連続となるときは,\(f\)は\(D\)で連続といいます.

この定義により,経験したことのないような想像もつかない関数でも連続かどうかをアプリオリ(先験的に,感覚とは独立に)に判断できるようになるわけです.

連続の定義は,次の記事で解説しています.



トマエ関数

トマエ関数とは,Carl Johannes Thomae にちなんで名づけられた関数です.

トマエ関数$$\begin{equation}
f(x)= \left \{
\begin{array}{l}
\frac{1}{q} (xが有理数\frac{p}{q}のとき) \\
0 (xが無理数のとき)
\end{array}
\right.
\end{equation}$$

つまりトマエ関数は,
有理数のときには,分母はそのままで分子は\(1\)をとり,
無理数のときは,\(0\)になる
関数です.

まずこの関数の値がどんな値か,計算してみます.

\(f(1)=f\left (\displaystyle \frac{1}{1}\right )1\),
\(f(2)=f\left (\displaystyle \frac{2}{1}\right )=1\),
\(f\left (\displaystyle \frac{1}{2}\right )=\displaystyle \frac{1}{2}\),
\(f\left (\displaystyle \frac{1}{3}\right )=f\left (\displaystyle \frac{2}{3}\right )=\displaystyle \frac{1}{3}\),
\(f(\sqrt{2})=f(\sqrt{3})=f(\pi)=0\)

まだ全然わからないので,グラフを描いてみます.
\(x\)の範囲を\(0\)から\(1\)未満までとして考えてみます.

例えば,
分母が\(2,3\)の場合で,\(x\)の範囲を\(0\)から\(1\)未満までとして考えると,
無理数は\(0\)なのでとりあえず無視して,\(x\)の取り得る点としては,

\(x=\displaystyle \frac{1}{2},\frac{1}{3},\frac{2}{3}\)

なので,関数の値としては,
\(f\left (\displaystyle \frac{1}{2}\right )=\displaystyle \frac{1}{2}\),
\(f\left (\displaystyle \frac{1}{3}\right )=f\left (\displaystyle \frac{2}{3}\right )=\displaystyle \frac{1}{3}\)

プロットしてみます.(分母を\(3\)までとした)

分母が\(5\)までの場合

上記の分母\(3\)までの場合に加えて,
\(f\left (\displaystyle \frac{1}{4}\right )=f\left (\displaystyle \frac{3}{4}\right )=\displaystyle \frac{1}{4}\),
\(f\left (\displaystyle \frac{1}{5}\right )=f\left (\displaystyle \frac{2}{5}\right )=f\left (\displaystyle \frac{3}{5}\right )=f\left (\displaystyle \frac{4}{5}\right )=\displaystyle \frac{1}{5}\)

ここで,\(f\left (\displaystyle \frac{2}{4}\right )\)が無いのは,分母分子が互いに素でないからです.
約分すれば,\(f\left (\displaystyle \frac{1}{2}\right )\)と同じだからです.

プロットすると,

同じように,分母が\(10\)まで分母が\(30\)までプロットすると,

分母が\(100\)までの場合は,

関数の形は分かってきました.

トマエ関数の何が不思議か

トマエ関数の著しい特徴が,

有理数では不連続で無理数では連続となること

です.

グラフを見てみると,有理数の点はポツポツとしており,連続でないことは何となく分かります.ですが,無理数の点では連続になります.
至る所に有理数もあるはずなのに,無理数では連続になるということですがイメージがつきません.

もはや先ほどの一次関数とか二次関数で連続が明らかというレベルではありません.想像もつかない関数です.

有理数で不連続,無理数で連続ということを証明したいと思います.

有理数で不連続となることの証明

有理数\(x = \displaystyle \frac{p}{q}\)とします.
このとき,\(f(x)=\displaystyle \frac{1}{q}\)となりますが,\(x\)のどんなに近くをとっても,その中にある無理数\(s\)の点が必ず存在してしまい,\(f(x)=\displaystyle \frac{1}{q}\)と\(f(s)=0\)の距離が\(\displaystyle \frac{1}{q}\)未満にできない,\(\displaystyle \frac{1}{q}\)より近づけることができない.

よって,トマエ関数は有理数で不連続です.

どんな有理数の近くにも必ず無理数が存在することについては,今後追記します.

無理数で連続となることの証明

次に無理数で連続となることの証明です.

無理数を\(x\)とします.
また,\(x\)の大きさ\(1\)の近傍をとります.つまり,\(x-1\)より大きく,\(x+1\)より小さい実数.

この近傍の中で,分母が\(q\)の有理数を考えてみます.

それは高々有限個しかありません.

こういう思考のもと,どんなに小さな数\(\epsilon\)を指定しても,無理数\(x\)のある近くの点\(s\)であれば,全て\(f(x)\)と\(f(s)\)の距離が\(\epsilon\)未満に取れることを示します.

まず,このどんなに小さな数\(\epsilon\)でも大きな数足せば\(n\)回足せば,\(1\)より大きくすることができます.$$n\epsilon > 1$$これは「アルキメデスの原理」と呼ばれます.

そして,このように取った\(n\)に対して,分母が\(n\)以下でかつ\(x\)の大きさ\(1\)の近傍での有理数を考えると,各分母で有限個しかないので,全体でも有限個の有理数しかありません.

この\(x\)の近くにあるこれら有限個の有理数の中で,\(x\)に最も近い有理数(差の絶対値が最小)を選び,その差を\(\delta\)とします.

範囲\(( x-\delta,x+\delta )\)の中にあるような既約分数の分母\(q\)は,もはや\(n < q\)です.

なぜなら,\(n \leq q\)だと,\(x\)に最も近い有理数(差の絶対値が最小)の条件に反するからです.

よって,範囲\(( x-\delta,x+\delta )\)の中の任意の数\(r\)について,

\(r\)が有理数\(\displaystyle \frac{p}{q}\)であれば,$$|f(x)-f(r)|=|0-f(r)|=\displaystyle \frac{1}{q}<\displaystyle \frac{1}{n}<\epsilon$$

\(r\)が無理数であれば,$$|f(x)-f(r)|=0<\epsilon$$

以上より,無理数\(x\)の関数値に限りなく近づけることが示せた.
つまりトマエ関数は無理数で連続である.

さいごに

本記事ではトマエ関数の不思議な性質(有理数で不連続,無理数で連続)を示しました.
さらにトマエ関数は,

・至る所で微分不可能
・リーマン積分可能で値は\(0\)

という面白い性質も持ちます.

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