実数の厳密な定義ができたところで,次は高校数学でも学んだ数列の収束について定義したいと思います.高校数学ではだんだんとその値に近くことと定義しましたが,ε-N論法を用いて定義を行い,数列の収束問題の計算方法について定義から導かれる結論を解説します.
目次【本記事の内容】
なお,「東京大学出版 杉浦光夫著 解析入門1」を参考としております.
前回までで,Dedekindの連続性公理から議論を行い,実数を厳密に定義しました.それによると有理数では説明できなかった平方根の存在性を公理から証明することができました.
次に数列の収束を定義します.収束の定義にはε-N論法を用います.
ε-N論法は下記に説明していますのでご参照ください.
数列の収束
まずは数列\(a_n\)が\(\alpha\)に収束することを次のような記号で表すこととします.$$\displaystyle \lim_{n \to \infty}a_n = \alpha$$
これの読み方としては,
- リミット\(a_n\)イコール アルファ
- 数列\(a_n\)は\(\alpha\)に収束する.
- nを無限大に飛ばすとαに近づく.
などです.
さて,次にこの定義です.
言い換えると,
噛み砕いていうと,
さて,次の例題を考えてみます.
高校でもこれは学びます.感覚的には分母\(n\)をどんどん大きくすると数は小さくなっていきそうです.\(n = 1,2,5,10,100, \cdots\)とすると,\(\frac{1}{n}\)の値は,$$1, 0.5, 0.2, 0.1, 0.01, \cdots $$となり,0に近づいていきそうです.高校まではこの考察で終わりでしたが,我々は収束の定義に従って数列\(\frac{1}{n}\)が本当に\(0\)に近くのかを考えます.
考察
まず,任意の\(\epsilon >0\)に対して,$$ \left| \frac{1}{N}-0 \right|=\frac{1}{N} < \epsilon$$となる自然数\(N\)を見つけます.つまり,$$\displaystyle N > \frac{1}{\epsilon} ・・・①$$となる自然数\(N\)がどんな\(\epsilon\)に対してもあればいいのですが,自然数はどこまでも大きく取れるので必ず存在します.ただし,本当はこれは証明すべきことで,「アルキメデスの原理」と呼ばれる定理です.別途証明はします.
有界な単調増加数列の収束先は?アルキメデスの原理の証明(解析学 第I章 実数と連続4)
今,アルキメデスの原理を認めると,\(a=1,b=\frac{1}{\epsilon}\)とすれば,上記のような自然数\(N\)が取れることが分かる.
考察終了
では改めて例題を解くと,任意実数\(\epsilon >0\)に対して,①となる自然数\(N\)をとる.すると,$$n \geq N \Rightarrow \left | \frac{1}{n}-0 \right | = \frac{1}{n} \leq \frac{1}{N} < \epsilon $$
よって,①のような自然数\(N\)を取ることで,\(N\)以上の自然数の時に関しては,\(\frac{1}{n}\)と\(0\)の距離が\(\epsilon\)未満になることが証明され,$$\displaystyle \lim_{n \to \infty} \frac{1}{n}=0$$が分かりました.
数列の極限の計算方法
数列の極限の計算には便利な方法があります.それは収束する数列同士の四則演算は,極限値の四則演算になるというものです.
1. \(\displaystyle \lim_{n \to \infty}(a_n \pm b_n) = \alpha \pm \beta\)
2. \(\displaystyle \lim_{n \to \infty}a_nb_n = \alpha \beta\)
3. \(\displaystyle \lim_{n \to \infty}\frac{1}{b_n} = \frac{1}{\beta}\)
これもε-N論法を使えば証明できます.
証明
収束の仮定から今,任意の実数\(\epsilon > 0\)に対して,\(|a_n-\alpha|<\epsilon,|b_n-\beta|<\epsilon\)である.
1.$$\left | (a_n \pm b_n) – (\alpha \pm \beta) \right | \leq \left | a_n -\alpha \right | + \left | b_n – \beta \right | < 2\epsilon $$
ここで,不等式の評価に三角不等式を用いた.また最後に\(2\epsilon\)となっているが,任意なので問題ない.
2.$$|a_n b_n-\alpha \beta | = |a_nb_n-\alpha b_n + \alpha b_n – \alpha \beta| $$$$\leq |b_n||a_n-\alpha| + |\alpha||b_n – \beta|$$ここで,数列\(b_n\)は収束するので,有界である.よって,適当な自然数\(M\)で抑えられる.証明は下記の☆.
よって,$$\leq M |a_n-\alpha| + |\alpha||b_n – \beta|$$
よって,任意実数\(\epsilon > 0\)に対して,自然数\(n\)を数列\(a_n , b_n\)に対してうまくとり,$$|a_n-\alpha|<\frac{\epsilon}{2M},|b_n-\beta|<\frac{\epsilon}{2\alpha}$$ととれば,$$\leq M |a_n-\alpha| + |\alpha||b_n – \beta| < \epsilon$$
3.$$\left | \frac{1}{b_n} – \frac{1}{\beta} \right | = \left | \frac{\beta-b_n}{b_n \beta} \right |$$ここで,\(b_n\)の収束性から,任意実数\(\frac{\beta}{2}\)に対して,うまく自然数\(n\)が存在して,$$|b_n – \beta| < \frac{|\beta|}{2}・・・②$$とでき,また,三角不等式から$$|b_n – \beta| \geq |\beta|-|b_n|・・・③$$である.②と③より,$$|\beta|-|b_n| < \frac{|\beta|}{2}$$$$∴\frac{1}{|b_n|} < \frac{2}{|\beta|}$$
したがって,$$\left | \frac{1}{b_n} – \frac{1}{\beta} \right | = \left | \frac{\beta-b_n}{b_n \beta} \right |$$$$< \frac{2|\beta – b_n|}{\beta ^2} < \epsilon$$ここに,自然数\(n\)をうまくとり,\(|b_n – \beta| < \frac{\epsilon|\beta ^2|}{2}\)となるようにした.
☆の証明:
\(b_n\)の収束より,$$\epsilon = 1, \exists N , s.t. |b_N – \beta|<1$$$$∴\forall n \geq N , \beta -1 < b_n < \beta +1$$
よって,$$M = \max \{|b_1|,|b_2|, \cdots ,|b_{N-1}|,|\beta -1|,|\beta +1|\}$$とおけば,$$\forall n , |b_n| < M$$
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この命題によって,数列の四則演算で作られた新たな数列の極限を簡単に計算することができることが分かりました.
まず,次のように式変形します.$$\displaystyle \lim_{n \to \infty} \frac{n^2-n+4}{2n^2-1} = \displaystyle \lim_{n \to \infty} \frac{1-\frac{1}{n}+\frac{4}{n^2}}{2-\frac{1}{n^2}}$$
あとは分母分子にあるそれぞれの項を数列として,個別に計算してやると,\(\displaystyle \lim_{n \to \infty}\frac{1}{n}=0,\lim_{n \to \infty}\frac{1}{n^2}=0\)なので,$$\displaystyle \lim_{n \to \infty} \frac{1-\frac{1}{n}+\frac{4}{n^2}}{2-\frac{1}{n^2}} = \frac{1}{2}$$と計算できます.
まとめ
高校の時は何となくの感覚やテクニックで計算していましたが,定義から導くことができました.