本稿では級数の収束,発散についてまとめました.
Cauchyの収束条件からダランベールの収束判定法(ratio test)まで証明を行い,実際に例題を解いて使い方を解説します.
なお,「東京大学出版 杉浦光夫著 解析入門1」を参考としております.
級数の収束とCauchy列
まず級数(seires)とは次のような数列の項の無限和です.
$$\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}a_n=a_0+a_1+a_2+\cdots+a_n+\cdots$$
数列の項を無限回足したときに,値は収束するのか発散するのか,または振動するのかを考えます.
級数が収束するとは,次のように考えます.
級数の部分和を考えて,
\(s_0 = a_0\)
\(s_1 = a_0+a_1\)
\(s_2 = a_0+a_1+a_2\)
\(\cdots\)
\(s_k = \displaystyle \sum_{n=0}^{k}a_n\)
こうおくと,\(\{s_k\}\)はただの数列です.
級数の収束を次で定義します.
ここで,Cauchy列の収束条件より次が成り立ちます.
\(\Longleftrightarrow \forall \epsilon>0,\exists N\in \mathbb{N} , n>m>N \Rightarrow |a_{m+1}+a_{m+2}+\cdots +a_n|<\epsilon\).
基本は”絶対収束”と”収束・発散が分かっている級数”との比較
級数は部分和がCauchy列であれ収束するのですが,三角不等式から,$$|a_{m+1}+a_{m+2}+\cdots +a_n|\leq |a_{m+1}|+|a_{m+2}|+\cdots +|a_n|$$より,級数\(\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}|a_n|\)がもし収束するならば,そのCauchy列の条件$$|a_{m+1}|+|a_{m+2}|+\cdots +|a_n|\leq \epsilon$$が成り立ち,\(\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}a_n\)もCauchy列になることがわかります.
よって,
級数の収束は項の絶対値をとった級数の収束を調べればよいです.
項の絶対値が収束することを絶対収束といいます.
級数が絶対収束するならば級数は収束する.
\(\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}|a_n|\)が収束\(\Rightarrow \displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}a_n\)が収束
これは十分条件であり,必要条件ではありません.つまり,絶対収束はしなくても収束する級数はあるということです.(条件収束)
とうことでまずは絶対収束するかどうか調べることが基本となります.
級数収束の基本①:絶対収束するかどうかを調べる
以降,項が正であるような級数(正項級数)について調べます.
次に,すでに収束・発散が分かっている級数と比較する方法があります.
この方法は非常に有用です.
(1) \(a_n \leq c_n\)で,\(\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}c_n\)が収束する\(\Rightarrow \displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}a_n\)も収束する.
(2) \(a_n \geq c_n\)で,\(\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}c_n\)が発散する\(\Rightarrow \displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}a_n\)も発散する.
証明:
(1) \(\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}c_n\)の部分和が上に有界なので,部分和\(s_k = \displaystyle \sum_{n=0}^{k}a_n\)も上に有界で,かつ単調増加数列である.上に有界な単調増加数列は収束する.
(2) もし,\(\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}a_n\)が収束したとすると,(1)より\(\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}c_n\)も収束することになり,仮定に矛盾する.((1)の対偶.)
■
上記定理のような上からおさえる級数を優級数,下からおさえる級数を劣級数といいます.
収束・発散が既知の級数でおさえられれば,判定することが可能です.
級数収束の基本②:収束・発散が分かっている級数と比較する
では,既に収束・発散が分かっている級数として何があるでしょうか.
とりあえず下記をおさえておきます.
\(\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\displaystyle \frac{1}{n^2}\)は収束
\(\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\displaystyle \frac{1}{n^p}\)は\(p>1\)で収束,\(p\leq 1\)で発散
Cauchyの収束判定法
次に収束・発散を判定する便利な定理を述べます.
ある\(N\)より大きな\(n\)に対して,$$\sqrt[n]{a_n}\leq k \Rightarrow \displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}a_nは収束$$
(対偶をとると発散する)
証明:
「ある\(N\)より大きな\(n\)に対して」の部分は,収束・発散には最初の有限個の項は影響しないため,全ての自然数\(n\)と言い換えても同じです.
\(\sqrt[n]{a_n}\leq k\)より,\(a_n \leq k^n\)なので,これは収束する無限等比級数の優級数でおさえられたことになる.
■
ダランベールの収束判定法(ratio test)
もう一つ,収束・発散を判定する便利な定理を述べます.
$$l < 1 \Rightarrow \displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}a_nは収束$$$$l > 1 \Rightarrow \displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}a_nは発散$$$$l = 1 \Rightarrow 収束の場合も発散の場合もあり得る.$$
証明:
\(l<1\)のとき,\(l < k < 1\)となる\(k\)をとる. \(\displaystyle \lim_{n \to \infty}\displaystyle \frac{a_{n+1}}{a_n} = l\)より,ある項以上になると,\( k \)より小さくなる.つまり,\(\exists N , n>N \Rightarrow \displaystyle \frac{a_{n+1}}{a_n} < k \).
ここで,級数\(\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}c_n=\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}k^n \)とすると,
$$\displaystyle \frac{a_{n+1}}{a_n}<k=\displaystyle \frac{c_{n+1}}{c_n}$$
よって,$$\displaystyle \frac{a_{n+1}}{c_{n+1}}<\displaystyle \frac{a_{n}}{c_{n}}< \cdots < \displaystyle \frac{a_1}{c_1}$$
$$∴ a_n < \displaystyle \frac{a_{1}}{c_{1}}c_n$$
\(\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty} \displaystyle \frac{a_{1}}{c_1}c_n=\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty} \displaystyle \frac{a_{1}}{c_1}k^n\)は収束する優級数なので,\(\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}a_n\)は収束.
\(l>1\)のとき,\(l > k’ > 1\)となる\(k’\)をとる. \(\displaystyle \lim_{n \to \infty}\displaystyle \frac{a_{n+1}}{a_n} = l\)より,ある項以上になると,\( k’ \)より大きくなる.つまり,\(\exists N , n>N \Rightarrow \displaystyle \frac{a_{n+1}}{a_n} > k’ \).
先ほどと同様に,級数\(\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}c_n=\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}k’^n \)とすると,
$$\displaystyle \frac{a_{n+1}}{a_n}>k’=\displaystyle \frac{c_{n+1}}{c_n}$$
よって,$$\displaystyle \frac{a_{n+1}}{c_{n+1}}>\displaystyle \frac{a_{n}}{c_{n}}> \cdots > \displaystyle \frac{a_1}{c_1}$$
$$∴ a_n > \displaystyle \frac{a_{1}}{c_{1}}c_n$$
\(\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty} \displaystyle \frac{a_{1}}{c_1}c_n=\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty} \displaystyle \frac{a_{1}}{c_1}k’^n\)は発散する劣級数なので,\(\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}a_n\)は発散.
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例題7問
では,次の級数の収束・発散問題を解いてみます.
(1)\(\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}\displaystyle \frac{2n^2}{n^3+1}\) (2)\(\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}\displaystyle \frac{\sqrt{n}}{1+n^2}\)
(3)\(\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\displaystyle \frac{n}{2^n}\) (4)\(\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\displaystyle \frac{(1+n)^n}{n^{n+1}}\)
(5)\(\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\displaystyle \frac{3\cdot 5\cdot 7 \cdots (2n+1)}{5\cdot10\cdot15\cdots 5n}\)
(6)\(\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}\left (\displaystyle \frac{n}{n+1}\right )^{n^2}\)(7)\(\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty} \displaystyle \frac{1}{n^{\log{n}}}\)
解:
(1)\(\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\displaystyle \frac{2n^2}{n^3+1}\)
まずグラフを書いてみました.
実際は問題を解くときにグラフ化して解くことは少ないかと思いますが,せっかくなので.
n=1000までプロットしましたが,収束しているようには見えません.
ダランベールの収束判定法を使うと,$$\displaystyle \frac{a_{n+1}}{a_n}=\displaystyle \frac{2(n+1)^2\cdot (n^3+1)}{\{(n+1)^3+1\}\cdot 2n^2}=\displaystyle \frac{\left (1+\frac{1}{n}\right )^2\cdot \left (1+\frac{1}{n^3}\right )}{\left (1+\frac{1}{n}\right )^3+\frac{1}{n^3}}\to 1$$
なので,ダランベールの収束判定法では判断できない.
ここは基本の考えに戻って,優級数や劣級数を探す.
$$\displaystyle \frac{2n^2}{n^3+1} – \displaystyle \frac{1}{n} = \displaystyle \frac{n^3-1}{n(n^3+1)}\geq 0$$なので,発散する劣級数\(\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\displaystyle \frac{1}{n}\)がとれて,この級数は発散する.
(2)\(\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\displaystyle \frac{\sqrt{n}}{1+n^2}\)
n=1000までプロットしましたが,収束しているか微妙です.
ダランベールの収束判定法を使うと,$$\displaystyle \frac{a_{n+1}}{a_n}=\displaystyle \frac{\sqrt{n+1}\cdot (1+n^2)}{\{1+(n+1)^2\}\cdot \sqrt{n}}=\displaystyle \frac{\sqrt{1+\frac{1}{n}}\cdot \left (\frac{1}{n^2}+1\right )}{\frac{1}{n^2}+\left (1+\frac{1}{n} \right )^2}\to 1$$
なので,ダランベールの収束判定法では判断できない.
$$\displaystyle \frac{\sqrt{n}}{1+n^2}=\displaystyle \frac{1}{\frac{1}{n^{\frac{1}{2}}}+n^{\frac{3}{2}}}<\frac{1}{n^{\frac{3}{2}}}$$なので,収束する優級数\(\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\displaystyle \frac{1}{n^{\frac{3}{2}}}\)がとれて,この級数は収束する.
(3)\(\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\displaystyle \frac{n}{2^n}\)
n=50までプロットしましたが,収束してそうです.
ダランベールの収束判定法を使うと,$$\displaystyle \frac{a_{n+1}}{a_n}=\displaystyle \frac{(n+1)\cdot 2^n}{2^{n+1}\cdot n}=\displaystyle \frac{1+\frac{1}{n}}{2}\to \frac{1}{2}$$よって,この級数は収束する.
(4)\(\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\displaystyle \frac{(1+n)^n}{n^{n+1}}\)
n=1000までプロットしましたが,発散してそうです.
Cauchyの収束判定法を使うと,$$\sqrt[n]{a_n}=\displaystyle \frac{1+n}{n^{\frac{n+1}{n}}}=\frac{\frac{1}{n}+1}{n^{\frac{1}{n}}}\to 1$$
なので,Cauchyの収束判定法では判断できない.
$$\displaystyle \frac{(1+n)^n}{n^{n+1}}-\displaystyle \frac{1}{n}=\displaystyle \frac{(1+n)^n -n^n}{n^{n+1}}>0$$より,発散する劣級数\(\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n}\)が取れて,この級数は発散する.
(5)\(\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\displaystyle \frac{3\cdot 5\cdot 7 \cdots (2n+1)}{5\cdot10\cdot15\cdots 5n}\)
n=50までプロットしましたが,収束してそうです.
ダランベールの収束判定法を使うと,$$\displaystyle \frac{a_{n+1}}{a_n}=\displaystyle \frac{3\cdot 5\cdot 7 \cdots (2n+3)}{5\cdot10\cdot15\cdots 5(n+1)}\cdot \displaystyle \frac{5\cdot10\cdot15\cdots 5n}{3\cdot 5\cdot 7 \cdots (2n+1)}$$$$=\displaystyle \frac{2n+3}{5(n+1)}=\displaystyle \frac{2+\frac{3}{n}}{5+\frac{5}{n}}$$$$\to \displaystyle \frac{2}{5}(n \to \infty)<1$$したがって,この級数は収束する.
(6)\(\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\left (\displaystyle \frac{n}{n+1}\right )^{n^2}\)
n=50までプロットしましたが,収束してそうです.
Cauchyの収束判定法を使うと,$$\sqrt[n]{a_n}=\displaystyle \sqrt[n]{\left (\frac{n}{n+1}\right )^{n^2}}=\displaystyle \left (\frac{n}{n+1}\right )^{n}$$$$=\left \{ \left (1+\frac{1}{n}\right )^{n} \right \}^{-1}$$$$\to \frac{1}{e}(n \to \infty)<1$$よって,この級数は収束する.
(7)\(\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty} \displaystyle \frac{1}{n^{\log{n}}}\)
n=50までプロットしましたが,収束してそうです.
Cauchyの収束判定法を使うと,$$\sqrt[n]{a_n}=\sqrt[n]{\frac{1}{n^{\log{n}}}}=n^{-\log{n^{\frac{1}{n}}}}$$
\(n \to \infty\)のとき,\(\displaystyle n^{\frac{1}{n}} \to 1\)より, \(\displaystyle \log{n^{\frac{1}{n}}} \to 0\)となるので,$$\displaystyle n^{-\log{n^{\frac{1}{n}}}} \to 1(n \to \infty)$$
なので,Cauchyの収束判定法では判断できない.
$$\displaystyle \frac{1}{n^{\log{n}}}<\displaystyle \frac{1}{n^2}$$なので,収束する優級数\(\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^2}\)が取れて,この級数は収束する.
さいごに
Cauchyの判定法やアダマールの判定法が使えないパターンが多くあり,級数の収束・発散判定は一筋縄ではいかないと思いました.
万能の公式はありません.
地道に問題を解き,経験,技術,センスを磨いていくしかなさそうです.
それにしても,教科書の回答には収束or発散の答えしか載っておらず,その根拠やヒントが書いてないのが辛いです.
今回の記事を書くにあたって私自身大分勉強になりました.
また,プログラミングでグラフを書けると理解の助けになっていいですね.
私はpythonで書きました.
今回問題が解けずに載せなかった例題もあります.
解けたら少しずつ更新していこうと思っております.
(または別ページにまとめる等)