6つの同値な「実数の連続性公理」まとめ(解析学 第I章 実数と連続9)


これまで実数の連続性を公理とし,数列の極限について定義,それから導かれる様々な命題,定理を証明してきました.
その結果分かった実数の連続性公理と同値な条件(Bolzano–Weierstrass,Cauhy列の収束+アルキメデスの原理etc)
をまとめたいと思います.
どれを公理としてもよく,自分にあったものを議論の出発点としてよいのです.

なお,「東京大学出版 杉浦光夫著 解析入門1」を参考としております.

実数の連続性公理とは何だったか?

\(\sqrt2\)を考えます.

中学校で習う数ですが,\(\sqrt2\)は分数(有理数)では表せません.

だから実数という新たな数が必要となりました.

値にするとどのくらいなのでしょう?
だいたい,$$\sqrt{2} ≒ 1.41421356$$くらい.

数直線上のどこにあるのか?

数直線は連続的に繋がっているはずだから,どんどん拡大していけば\(\sqrt{2}\)はきっとそこにある.

これでは曖昧な理解.

数直線が連続的に繋がっていて,どんな数(ルートとか\(\pi\)とか)でもそこに確かに存在していることを議論できるように数学的にきちんと定義しようということで,「実数の連続性」という公理(議論の出発点とする約束事)が生まれました.

実数の連続性公理は様々な言い換え(同値な公理)があり,この記事では6個紹介します.

その6個は以下です.

1.Dedekindの切断による実数の定義
2.Weierstrassの公理
3.有界な単調数列の収束
4.区間縮小法+アルキメデスの原理
5.Bolzano–Weierstrassの定理
6.Cauchyの収束条件+アルキメデスの原理

1.Dedekindの切断による実数の定義

ドイツの数学者Dedekind(デデキント:ゲッティンゲン大学)は数直線を切断することを考えました.実数が連続的な数の並びなのであれば,切断した面で数が捉えられると考えたわけです.

例えば,\(\sqrt{2}\)で数直線を切断すると,今考えている数が,整数,有理数,実数によって次のように切断面が変わります.

整数の世界では,ぶつ切りの世界で断面は1と2になります.(図パターン①)

有理数の世界では,分数を使うことで,\(\sqrt{2}\)に近く数が現れますが,断面にはなり得ません.(図パターン②)

実数という\(\sqrt{2}\)の存在を認めた場合には,断面のどちらかに\(\sqrt{2}\)がある(どちらでもいいけど,どちらか一方しか起こり得ない).(図パターン③,④)

これがDedekindによる切断を用いた実数の連続性公理です.

数直線からイメージしやすい公理です.

2.Weierstrassの公理

次に,Dedekindの公理と同値なWeierstrass(ワイエルシュトラス)の公理を紹介します.

定義(Weierstrassの公理)実数\(\mathbb{R}\)の上界を持つ部分集合\(A(\neq \phi)\)がWeierstrassの公理を満たすとは, Aの上限\(\sup A\)が存在すること.

Weierstrassの公理が言っているのは,天井があるような集合には上限というmax値が実数に存在すると言っています.

例えば,集合\(A\)として平方数が2より小さくなる数の集合,$$A = \{x | x^2<2 \}$$を考えます.

集合\(A\)には,2とか5とか,集合\(A\)のどの元よりも大きな数があるので,上に有界です.

このとき,集合\(A\)に蓋をするようなmax値が存在すると言っており,それが\(\sqrt{2}\)に他なりません!!

Weierstrassの公理も直感的でイメージしやすい約束事と思います.

このWeierstrassの公理はDedekindによる連続性の公理から直接と同値であることが証明できます.

証明は以下を参照してください.

3.有界な単調数列の収束

次に,数列の収束先として,実数をとらえます.

主張は以下です.

定理(有界単調増加数列の収束)上に有界な単調増加数列\(a_n\)は,\(\sup\{a_n | n \in \mathbb{N}\}\)に収束する.

上で述べた定理は,上に有界を下に有界に置き換えることで同様に\(\inf\)に収束することも示せます.

例として,次のような数列を考えます.$$1,1.4,1.41,1.414,1.4142,1.41421,\cdots$$

この数列は上に有界な単調増加数列で,その収束先となる上限が実数に存在します.

その上限が\(\sqrt{2}\)です.

この定理は,Weierstrassの公理より導くことが可能です.

また,この定理から,アルキメデスの原理も証明できます.

アルキメデスの原理は,どんなに小さな数\(a\)とどんなに大きな数\(b\)をとったとしても,仮に\(a=0.000001,b=9999999\)としても,この小さな数\(a\)を何回も何回も足せば(\(n\)回足せば)いずれ\(b\)を追い越すということを主張するものです.
\(\displaystyle \lim_{n \to \infty}\frac{1}{n} = 0\)の証明でも本質的に使われています.
またアルキメデスの原理は,$$\lim_{n \to \infty}n = + \infty$$であるということも主張しています.

逆にこの「有界単調増加数列の収束」定理を公理として認めることで,Weierstrassの公理が導けるので,
「有界単調増加数列の収束」定理も実数の連続性公理と言えます.

「有界単調増加数列の収束」定理は数列の収束先が実数として存在することを言っており,これも直感的に公理として分かりやすいです.

4.区間縮小法+アルキメデスの原理

次に,区間縮小法です.
これだけでは実数の連続性公理とはなりませんが,アルキメデスの原理も認めることで,実数の連続性公理となります.

区間縮小法は,だんだん小さくなっていく有界閉区間が無限に続くとき,

行きつく先はどうなっているのか,

ということを述べた定理です.

図で表してみます.

少し分かりづらいですが,行き着く先にも,元が存在することを主張する定理です.

区間縮小法は,「有界単調増加数列の収束」定理より直接導くことができます.

詳細は以下を参照ください.

5.Bolzano–Weierstrassの定理

次に,Bolzano–Weierstrassの定理です.
Bolzano–Weierstrassの定理は,区間縮小法とアルキメデスの原理から証明できます.

定理(ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理)

有界な実数列\(\{a_n\}\)は常に収束する部分列をもつ.

部分列とは,数列の項を部分的に無限個取って作った数列です.ただし,項の順番は変えません.

Bolzano–Weierstrassの定理のイメージです.

この定理は,n次元に拡張することもでき,それにより有界閉集合の本質として「コンパクト」という数学で重要な概念に行き着きます.

6.Cauchyの収束条件+アルキメデスの原理

最後に,Cauchyの収束条件です.
Cauchyの収束条件はBolzano–Weierstrassの定理から導かれます.

定理(Cauchyの収束条件)数列\(\{a_n\}\)が収束する \(\Longleftrightarrow \) 数列\(\{a_n\}\)がCauchy列.

Cauchy列とは,nが十分大きなところでは,数列の差がどこまでも小さくなる数列です.

Cauchy列であることは収束することの必要十分条件であることを主張しています.

逆に,「Cauchyの収束条件」と「アルキメデスの原理」から,「Weierstrassの公理」を導くことができるのです.

まとめ

最後に同値な実数の連続性公理の関係性を図でまとめておきます.

さらに同値な定理として、

・中間値の定理
・最大値の定理
・ロルの定理
・ラグランジュの平均値の定理
・コーシーの平均値の定理
・ハイネ・ボレルの定理

もあるようです.

どれを実数の公理としてもよいですが,私が一番好きなのは「Dedekind切断」による実数の定義です.

一番数直線をイメージ的に表現していますし,数を集合的に捉えているところが好きです.

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